昨年7月の豪雨災害で全壊した熊本県人吉市紺屋町の老舗「しらいしうなぎ屋」が、今月末にも営業を再開する。濁流が押し寄せる中、必死で守った「秘伝のたれ」は健在。香ばしく焼き上げた人気店の味が、人吉の街に戻ってくる。
「ジューッ」。改装された厨房で、4代目の白石俊彦さん(77)が炭焼き台に向き合っていた。営業再開に向けた「試し焼き」。焼き網には身を開いたうなぎがずらり。焼きムラが出ないよう竹ばさみで頻繁に裏返し、たれに3~4回くぐらせては、また焼く。煙が充満し、額には玉の汗が浮かぶ。
焼き上がったうなぎは表面が照り、皮はこんがり。「食べてみて」。勧められ、取材中の記者も一切れ口に入れた。脂が乗ってふんわりした食感、あっさりした甘み。「うまい」。記者がうなると、白石さんはうれしそうに笑った。
同店は川魚の料理店として100年以上前に創業し、後にうなぎ専門店になった。たれは約70年間、継ぎ足しながら使ってきた。隣の「上村うなぎ屋」とともに、県内外から多くの客が通う人気店だった。
昨年の豪雨では氾濫した川の泥水が店内に流入。「お父さん、たれ持って!」。店主で妻純子さん(72)が叫んだ。足が不自由な白石さんは、たれが入った約20キロの鉢を抱え、夢中で2階に運び上げた。厨房や食事処は浸水したが、たれは守った。容器に小分けし、災害支援で譲り受けた冷蔵庫で冷凍保存した。
ただ、それで安心はできなかった。たれは何度もうなぎをくぐらせることで独特のうま味やとろみが生まれる。いったん味が損なわれると、元通りの味を取り戻すには時間がかかるからだ。
店の復旧が完了し、再開のめどが立った時点で、白石さんは初めてたれを解凍。長男圭一さん(48)らと家族4人で味見した。「よし、いける!」。味は変わっていなかった。
白石さんがもう一つ心配だったのが、自身の焼く腕前だ。「1年も焼いていない。感覚を忘れていないだろうか」。だが、試し焼きをしてみて安心した。「勘は鈍っていない」
営業再開を前に、復旧を手伝ってくれた県内外の人たちにかば焼きを送ったら、いよいよ開店だ。「お客さんが来るのが楽しみ。たくさんの人においしいうなぎを食べてほしい」。白石さんと純子さんはその日を待ちわびる。(小山智史)
からの記事と詳細 ( 老舗の味、復活へ 人吉市のうなぎ店 豪雨被災も「秘伝のたれ」守る - 熊本日日新聞 )
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