Tuesday, May 11, 2021

日本郵船 ・長澤仁志の「打たれても出る杭になれ!」 - マイナビニュース

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日本郵船 ・長澤仁志の「打たれても出る杭になれ!」

景況は2極化。同じ輸送サービスでも、ヒトを運ぶ航空は大赤字が続くが、モノを運ぶ海運や宅配は活況を呈し、日本郵船は2021年3月期、経常利益で約2000億円(20年3月期は444億円)と大幅増益の見通し。変化の激しい中、好業績をあげられるのは、海運を中心に、航空貨物、陸運と総合物流につながるポートフォリオ戦略が功を奏した形。サスティナブル(持続可能)な経営体を築こうと、社長・長澤仁志氏が中長期視点で掲げるのが、「地球にやさしい物流を」という路線。同グループが年間に排出するCO(2 二酸化炭素)は約1420万トン。この現実を踏まえて、長澤氏は国連が定めたSDGs(持続的発展のための諸目標)を念頭に、「ESG(環境、社会、ガバナンス)を経営の中心に据え、社員1人ひとりが自分の仕事に落とし込む所にまで持っていく」と語る。当座の好業績に浮かれることなく、そのポートフォリオ戦略の中で、「力を入れていくものと少し抑えていくものとのバランスを取っていく」という長澤氏。中長期視点で進めるESG経営の真髄とは─。

海運業界から見る個人消費の変化

 コロナ禍の消費は、『コト』から『モノ』へ──。

 海運を中心に、航空貨物、陸運と総合物流を担う日本郵船のこの1年間の活動を見ると、コロナ危機下の物流の動きが『モノ』の消費増加を背景に活況を呈していることが分かる。

「昨年の初め、わたくしどもも新しい年度の予算や事業計画を詰めていたわけですが、そこへコロナ危機がやってきた。これは従来のSARSやMERSなどの感染症と違って、結構大きな問題になるだろうと。どの位で収束するか、よく読めなかったわけですが、ただ、結果的に見て、1年経ってまだ収束していないということですので、相当大きな影響をもたらしたことは間違いないと思います」

 またたく間に、全世界に感染症が広がり、パンデミック(世界的大流行)となったコロナ危機。各国の主要都市でロックダウン(封鎖)が始まると、世界各地で物流を営む日本郵船は昨年初め、「世界の消費は低迷するだろう」と読んだ。

 そのときの分析について、社長・長澤仁志氏が語る。「それで特に、一番大きな影響を受けるのは、わたくしどもの事業でいうと、一般消費財を運ぶコンテナ船であり、自動車輸送だと。こういったモノの消費が低迷して、コロナ禍の間は回復が見通せなくなるのではと思っていました」

 このように、厳しい見方を立てていた。しかし、昨夏あたりから、事情は一変。

 長澤氏は、「わたしどものミクロ的な物流という断面だけを取ると」とことわりながら、「消費にはやはり底堅いものがありましてね」と次のように続ける。

「ファーストクォーター(2021年3月期の第1四半期)は非常に影響を受けました。自動車なんかは50%位物流が途絶えましたし、一般消費財も2割位止まったような状況。それが夏を越えてから動きが一変しました。(生き方・働き方改革の中で)自分たちの働いている自分の家の環境を良くしようということで、家具、家電、それから屋外の芝刈り機のような荷物が急激に回復していきましたね。
ちょっと驚くべきことに、昨年の9月以降、おしなべて見ると、平均で2割位、一昨年(2019)よりも荷物が伸びているということなんですね」

 今回のコロナ危機は全体的にマイナス影響を与えているのだが、産業界では2極化現象が見られる。デジタル化でIT(情報技術)やソフト関係の業種は好調で、自動車などの製造業も比較的堅調。観光や宿泊、飲食などのサービス業が苦境にあえぐ。

 また、物流や輸送という領域で見ると、ヒトの移動に関わる航空は需要が吹っ飛び、大赤字の状況。モノの輸送にたずさわる宅配や長距離輸送、そして海運、航空貨物は好調と明暗を分ける。非常に対照的な様相を呈しているのも、今回のコロナ禍の特徴だ。

「巣ごもり需要の中で、『コト』から『モノ』へという流れですね。いわゆる外食したり、旅行したりとそういうことから、先ほど申しあげたように、自分の家の環境を良くするための家具、家電を購入しようという『モノ』の消費です」

 日用品、一般消費財の輸送を担うコンテナ船はこうした消費の好調を背景に運賃も上昇。

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21年3月期は史上最高益

 環境変化の激しい中で、日本郵船の2021年3月期は売上高1兆5400億円(20年3月期は1兆6683億円)で、経常利益は2000億円(同448億円)、当期利益(純利益)は900億円(同311億円)と大幅な増益になる見通し。

 利益面で見ると、同社が21年3月期決算について、今年2月3日に開示した経常利益の数値は1600億円。それが4月6日に開示の連結業績では2000億円に拡大、20年3月期と比べて4・4倍強の増益である。

 正式には5月10日に業績確定の数値が発表されたが、想定を上回る大幅増益決算で史上最高益となる見通しである。

 日本郵船グループが海外で展開する国数は58カ国・地域。運航する船舶は777隻。従業員数は5万6000人を数える。

 文字どおり、グローバルに活動を展開する立場で、世界経済の現状をどう捉えるのか?

「各国とも、いわゆる財政が大支出をしてくれています。世界中にお金が有り余っているような状態ですね。そういった金回りによって、株価とか、いろいろなモノが上がっていますね。株を持っている人などはある程度売って、モノに変えていく。そういう株高の状況の中で、モノに変わっていって、それがニューヨーク(の株高)につながっていると。そういうことではないか思います」

 世界中で潤沢な資金が流れ、回り回って、「自分たちの物流の世界に良い勢いで来ている」という認識を長澤氏は示す。

 長澤氏が続ける。「この状況がいつまで続くかということ。正直なところ、僕は極めて警戒感を持っています」

 各国とも財政出動をするに当たっては、国債を発行して債務を膨らませている。国の財政を元に戻していかなくてはならず、それには、ある程度の増税などの動きが必ず起こってくる。

「それが経済活動の自然の成り行きですからね。経済活動の成長によっての税増収なんて、なかなか簡単にできないと思いますのでね。財政投融資なども締まってくるかもしれないし、全体に財布のヒモがきつくなる」

 長澤氏は先行きの見通しについて、こう述べ、「それが一挙に来るのか、モデレートなのか、その辺りは分かりませんが、ある程度の反動が来ると思わざるを得ない」という認識を示す。

 現に、英国などで法人税引き上げの動きが出たりしている。「国がもたないですからね。これは、一旦どこかでリセッションみたいな、将来的には何年後か分かりませんが、そういう事が起こる可能性もあるかなと。ただ、世界全体は経済成長していくでしょうから、そのリセッションと成功のところが上手くプラスマイナスで行けば、大きな落ち込みは避けられそうな気もします」

 緊張感をもって、冷静に対応していくときという長澤氏だ。

米中対立の中をどう生き抜く?

 世界約60カ国に拠点を置き、グローバルに総合物流業務を営む日本郵船グループにとって、米中対立も気懸りの1つ。

「はい、世界でモノの流れが滞るような応報主義、あるいはブロック経済的な動きが出てくれば、世界の経済成長に大きな障害となることは間違いないと」

 長澤氏はこう語りながらも、「米国のバイデン大統領はいわゆる人権問題とか安全保障に関わる問題で激しく中国に対して物を言っていますが、経済的な部分ではそれほど激しいことになるのかなという気もします」という認識を示す。

 今後の動向を、総合物流の立場からはどう見ているのか?

「今でも一般消費財でいえば、アジアから北米に向かう内の50〜60%は中国出しですからね」と長澤氏。

 トランプ前政権下で米中対立が先鋭化し、安全保障問題も絡み、グローバル企業の間で〝チャイナ・フリー(中国外し)〟の動きが出始めた。

 海外の生産拠点を中国から、ベトナムやマレーシアなどの東南アジアや他の国へ移す動き。

 それでも、アジア全体から北米に向かう一般消費財の50〜60%は中国出しという大きな流れは変わっていない。この事をどう捉えるか?

「米国にとっても無茶はできないし、それは中国にとっても同じですからね。この2大国間の議論というのは、あくまでも人権であったり、安全保障といった領域に焦点が当たっていて、トランプさんの時のような対立や喧嘩は双方とも望まないんじゃないかという気がしています」

 米中両国とも、互いに貿易相手国として最大国という関係。政治的に対立する要因を抱えて、それを議論しながら、経済関係をどう維持するかという落し所を見つけていくということ。

 例えば、EV(電気自動車)の米テスラが中国にも生産拠点を持ち、中国市場を重視する戦略を展開。中国は多くの留学生を米国の各大学に送り込んでいるという現実。

 政治的には、価値観を共有し民主主義を大切にする日・米・豪・印の〝4カ国連合〟が組まれ、1党独裁の中国と対峙する形は当分続く。波乱要素を常にはらみながら、グローバル経済の流動性をどう担保するかということで、ここは知恵の出しどころだ。


世界の人々の日常生活に必要な消費物資を運ぶ定期船。CO₂の排出削減へ向け、燃料転換に向けての努力が続く。

経常利益は2000億円、その増益要因は?

 この好決算をもたらした要因は昨夏以降、モノの動きが活況を呈したことにも求められるが、やはりコロナ禍前に同社が構造改革の一環として手を打ってきたコンテナ船の統合が功を奏した。

 日本郵船は商船三井、川崎汽船と共に17年にコンテナ船事業を統合、『オーシャン・ネットワーク・エクスプレス(Ocean Network Express,LTD 通称ONE=ワン)』を設立。

 コンテナ船は食料や雑貨などの日用品、そして原材料から精密部品まで日常生活に必要な物資を運ぶ。原油を運ぶタンカーと並んで海洋貨物輸送の主流を占める大事な事業。

 海上輸送の花形だが、いかんせん日本の海運主要3社のシェアが近年小さくなっていて、構造改革が求められていた。

「世界的な規模で見れば、3社それぞれで2%、3%のシェアしかないと。一方で、大手のマースクやMSCは2割ぐらいのシェアを持っていて、10倍くらい違う」

 これでは競争にならないと、日本郵船は内藤忠顕氏(現会長)が社長の時代の17年に商船三井、川崎汽船と共同でONEを立ち上げたという経緯。

 ONEはスタート当初、システムづくりとその運用で不具合を起こし、1年目は約620億円の赤字を出して、文字どおり、産みの苦しみとなった。
 
 19年3月期に、日本郵船が経常利益で20億円強の赤字(営業損益では110億円の黒字)を出し、当期利益(純利益)で445億円の赤字決算になった要因の1つがこのONEの損失であった。

 そのONEも19年度は立ち直り、「本当にONEの人たちはよくやったと思います。19年度に立て直したことが20年度につながった」と長澤氏は今回の好業績の主役になったと評価する。

 海運を含む物流の国際競争は激しくなるばかり。

 マースク(正式にはAPモラー・マースク)はデンマークに本拠を構え、コンテナ船を550隻以上所有し、世界125カ国に事業拠点を持つ世界最大の海運会社。

 同2位のMSCはスイス・ジュネーブに拠点を構え、グローバル市場での存在感を高める。

 海運市況の上昇とコンテナ事業の構造改革の相乗効果で大幅増益になったということ。コンテナ事業で生き抜くため、この統合はグローバル競争下での1つの道筋をつけたと言っていい。

 この事業統括はコンテナ以外でも可能性はあるのか?

「コンテナ船は3社合わせても、まだまだグローバル市場でのシェアは7%程度。ところが、自動車輸送の船では、邦船3社で世界のシェアはかなり高い。独禁法などの絡みもあり、それにいろいろな障害もあって、なかなか簡単ではありません」と長澤氏。

 同社の事業は、定期船(コンテナ船部門とそれを各地で展開するターミナル関連部門)、航空貨物、物流(陸運)、そして不定期船という構成。

 不定期船事業の中に自動車輸送、ドライバルク輸送(鉄鉱石や石炭など)、それにエネルギー輸送(原油、LNG、石油製品、ケミカルなど)の各部門を抱える。

 海運などの輸送事業は世界経済の動向、変化を敏感に受ける。今回のコロナ禍で昨年前半は自動車の製造、販売が低迷。このときは自動車船輸送もマイナス影響を受けて苦しかった。

 航空貨物も19年度は苦しく、コロナ禍前半も同じ状況だった。しかし、後半には需要が増え、同社の関連会社、NCA(日本貨物航空)の好業績につながっていった。

「海運業というのは、いろいろボラティリティ(変動性)があり、非常に汎用性も強いですね。だから、ある程度コントロールできる範囲でポートフォリオを組んでいくことが重要だと思っています」

 良い事も悪い事もある中で、コア・コンピタンス(競争力の中核)をどう作りあげていくか──。「力を入れていくものと、ちょっと抑えていくものとバランスを取りながら、やっていく」と語る長澤氏だ。

なぜ、ESG経営を強力に推進するのか

 菅義偉内閣は、2050年に地球温暖化ガス(CO2=二酸化炭素)の排出を実質ゼロにすると明言。この大きな政策の方向に沿って、CO2対策をどう立てていくか──。

 同社が事業活動で年間に排出するCO2は1420万トン。国内企業では鉄鋼や各社電力会社が最も多い排出量となるが、その次のランクで海運各社の排出量も多い。

 数年前は、産業界でも石炭や石油より排出量の少ないLNG(液化天然ガス)などの活用で環境問題に対応しようという考えが多かった。

 しかし、国連が2015年にSDGs(持続的発展のための諸目標)を設け、CO2排出をなくしていこうと呼びかけたことから、世界全体の流れが一変。

「われわれは年間1420万トンを排出している会社。何もしなければ、社会から淘汰される」

 長澤氏はこうした認識を強め、20年4月、社長をトップとするESG経営推進体制を構築。

 E(Environment、環境)、S(Society、社会)、G(Governance、ガバナンス=統治)を重視するESG経営への推進。具体
的には21年1月、ESG経営推進グループを新設、同4月、長澤氏をトップとするESG経営推進委員会を設置。

 ESG経営推進委員会や推進グループが全社方針や目標を設定し、各経営現場は部署単位や1人ひとりのやるべき事などを決めて実行。その結果は経営会議や取締役会へ報告していく体制である。

 こうやって、意識の大変革を図る経営戦略。CO2削減、排出の実質ゼロを図ることは容易なことではなく、これまで〝成長の制約〟と受け取られていたが、その制約要因を成長要因に切り換えようという意識の一大転換だ。

 長澤氏は社長に就任した19年秋ごろから、「ESG経営をグループ全員に浸透させよう」と積極的に動き始め、21年2月、『NYKグループ ESGストーリー』を作成。

 長澤氏は、『NYKグループESGストーリー』の中で三菱の創業者、岩崎彌太郎が海運業を興して150年という歴史に触れながら、次のように述べる。

「不確実性が高まり、未来が見通しづらい世の中で、持続可能な社会に必要な存在であり続けられるのか。その答えを発見する鍵は、当社グループのどこかに確実に存在しているはずだと信じています。今はまだ見えない価値をESGのモノサシで本気で追求し、磨き上げ、形にする経営努力は、これまでの常識では事業として成り立たないと思われていた領域まで目を凝らしていくことであります」

 社会に選ばれる企業として存続するには、「どう行動すべきか」という長澤氏の全員経営だ。

 今、船舶は重油を使って航行。これから当分、環境にいいエネルギーとしてLNGやLPG(液化プロパンガス)、そしてバイオメタノールなどが考えられる。これらは化石燃料の域内にとどまるが、重油に比べて、CO2排出を3割から4割削減できるとされる。

 さらに一歩進んで、カーボンフリー(CO2排出ゼロ)にするには、アンモニアや水素を「燃料として使っていかなければならない」という問題意識。

「燃料転換は社会から求められている課題。われわれはしっかり答えていく責任がある」と長澤氏もホゾを固める。

意思決定の透明化で全員参加の経営を

 打たれても出る杭になれ──と、長澤氏は社内を叱咤激励。

「うちの会社は非常に古い会社なわけです。設立から136年。言ってみれば古臭いカビみたいなものがあちこちに染みついている部分もあるんですよ。僕自身は役員もさせていただき、いろいろな機会でそういうものを何とか払拭しようと声をあげて言ってきたこともあったんです。なかなか総意が得られなくてですね。全てがだめだったんですが、社長となるとですね、いろいろな事を変えられるかなと思いましたね」

 長澤氏はそれまでの経営役員を執行役員(全員で25人)という名称に切り換え、活発な議論を促している。「完全に形骸化していた。一部ですでに合意ができていることに他ならない」ということでの改革。

 経営会議は、会長、社長にプラス7本部長の9人で構成。ここでも例えば投資案件について、各メンバーは必ず、『YES』か『NO』を発言することになっている。

 意見が拮抗すれば、差し戻して、もう一回審議する。とにかく「審議が深みのあるものにしていく」という考え。

 社員数は世界で約5万6000人、運航する船は700隻以上。そのグローバル全体に対し、「進むべき方向性をしっかりメッセージで伝えていくのが社長の仕事だと思っています」と長澤氏。

 長澤氏は大学時代ラグビーに打ち込み、そして入社後も同好会で親しんできた。

 座右の銘は何か? と聞くと、すかさず「One for All, All forOne. ですよ」というラグビー精神の言葉が返ってきた。

 1人はチーム全体のために、全体は1人のためにという『個と全体』の調和性のある関係で変革の時を生き抜くという生き方だ。全員経営の実践である。

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