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■プロローグ
初代ワゴンR
当のスズキすら予想しなかったほどの大ヒットを飛ばすばかりか、その後の軽自動車像をも一変させた初代ワゴンR。それまでのアルトに代わる看板車種になるまでに時間はかかりませんでした。
初代ムーヴ(写真は1997年型)
ときは1993年のことで、翌々年の1995年にはダイハツが似た思想のムーヴを発進。お互い食い合うどころかこの2車それぞれ台数を引き伸ばし、同思想のクルマを他社に誘引しながらハイト軽という新しい市場を作り出しました。
スズキパレット
スーパーハイト軽の始祖、タント
以降、ダイハツがハイト型を超えたスーパーハイト型のタントをヒットさせればスズキはパレットやスペーシアで追うなど、スズキvsダイハツの火花は軽の他のジャンルででも散らしていましたが、ダイハツがまるで思いついたものすべて送り出していたかのようなムーヴの派生車種、ムーヴ・ラテ、ムーヴ・コンテに対してだけは、なぜかスズキは応戦することなく、自ら生み出したハイト軽市場にはワゴンR1本を貫いてきました。
ムーブラテ
ムーヴコンテ
スズキにとっては、ラテ、コンテともシェアを奪われるほどの脅威に映らなかったのかも知れず、実際、ラテ、コンテとも1世代で販売終了となりました。
旧ムーヴキャンバス
2017年にはムーヴ・キャンバスが登場。考えてみたら、ハイト型軽にスライドドアを設けたクルマはそれまでにはなく、ワーゲン・バスにも似た愛らしい姿であることも相まって、市場に定着しました。クルマが売れない時代の中にあって、ヒット作に数えていいでしょう。それまでのムーヴ派生車に対して冷淡だったスズキも、ムーヴ・キャンバスの存在に気がかりでなかったはずはありません。
ワゴンR初の派生車・ワゴンRスマイル、発進!
「キャンバスばかりはダイハツが1世代で終わらせるとは思えん」と、2代目キャンバスの開発を見透かしてしていたかのように2021年8月27日、スズキはワゴンRスマイルを送り出しました。
かつてのワゴンRワイドは別格にあたり、ワゴンRにとって初の派生機種となります。
●デザインの見どころはフロントに
スズキワゴンRスマイル ハイブリッドX(CVT FF・2021年8月27日発表・9月10日発売)
新型キャンバスが旧型から踏襲した、全体のスタイルやカラーリングのほのぼの志向には、幼稚園児がキャンバスを見かけるや、「わあっ…」といいながらトコトコ駆け寄っていく雰囲気がありますが、それに匹敵する特徴は、ワゴンRスマイルには見いだせません。ましてや「ワゴンR」を冠称する「ワゴンRスマイル」なのに、本家ワゴンRのデザイン要素さえ見られない。
全体の形、特に横から見たシルエットはキャンバスそっくりですが、旧型&新型キャンバスがボディ全体に特徴を与えたのに対し、ワゴンRスマイルのほうはどうやらデザインの見どころをギョロ目ライトのフロントフェイスに集中させた感があります。いずれにしても外形スタイルの面に於いて、ワゴンRスマイルと新旧キャンバスは別方向を向いており、このへん、約30年前の初代ワゴンR VS 初代ムーヴの場合と同じ構図に映ります。
仕上がりのいいめっきのラジエーターグリル
この位置から見ると薄っぺらな造りではないことがわかる
筆者がワゴンRスマイルで気に入ったのはラジエーターグリルの仕上がりと、フードとフェンダーの造形。
写真では伝わらないのですが、グリルは寸法が限られる軽自動車にして立体感・奥行き感があり、メッキ処理と相まって安っぽさがないのがいいと思いました。
丸いランプ後ろの丸み部分になかなかの厚みを感じる
フードとフェンダーは、ギョロ目ライトを擁する部分から後ろにかけての丸みに薄っぺらな感じが皆無なことで、実際手で押してみてもヘンにしなることがありませんでした。卵の殻やトンネルのアーチ同様、丸みを与えることででも強度を上げているようです。
パッと見で、フロントサイドサブガラス上が斜めになっているのが目につく
この部分ね
全体がきれいに仕上がっていますが、唯一気にかかったのが、フロントガラス上辺~サイドガラス上辺にかけてのラインが、途中のフロントサブガラス上で下がっている点で、ここは水平のままサイドにまわすことはできなかったのか?
いったん気になると、離れて見ても気になる
スライドドアレールを内蔵する都合上、サイド側を1段低くせざるを得なかったのかもしれませんが、ウエストライン(サイドガラス下端のライン)がフェンダーからクォーターガラスにかけて「シャキッ!」と一直線で通っているだけに、ここだけが破綻しているように映りました。
ワゴンRスマイルのサイドからの各寸法
車両サイズは、全長と全幅が軽規格いっぱいの3395×1475mm。全高は5ナンバー小型車全福の上限値みたいな1695mm…スペーシアの1785mmに対して90mm低い勘定です。
フロントからの各寸法
全高はスペーシアより90mm低い
軽自動車はサイズが制限されていて、長さや幅は枠いっぱいに使いたがる中、全高は上限が2000mmと自由度があるだけに、全高の高い低いがジャンル分け要素のひとつになっています。
●基本機種構成は、たぶん迷うことは少ない、たったの3つ。
機種構成は割とシンプルで、安いほうから「G」「ハイブリッドS」「ハイブリッドX」の3つ。
いちばん安いG。車両本体価格129万6900~142万0100円。
「G」はハイブリッドデバイスもアイドリングストップもない純粋なガソリンエンジン車で、各種電子安全デバイスや、前席・サイド・サイドカーテンエアバッグは備わるものの、内外を飾るパーツのめっき処理やスライドドアのパワー開閉機能、キーレススタートなどが省かれる機種。
「値段が高くなるハイブリッドなんか要らない」「多少不便でもいいヤ」という、とにかく安く上げたいひとにはGがいいでしょう。
ただし「それにしてもちょっとお粗末すぎるかな」という向きには、せめてこれだけはということで、キーレススタートやスライドドアのイージークローザー(半ドアからの最後の閉まりだけ電動となるもので、スライド開閉が電動になるわけではない)が備わる「快適パッケージ装着車」があります。
中間のハイブリッドS。車両本体価格、147万2900~165万6600円。
真ん中の「ハイブリッドS」はその名のとおりハイブリッド&アイドルストップシステムが備わるクルマで、電動スライドドアに運転席シートやハンドルの上下調整など、便利デバイスが加わり、アダプティブクルーズコントロールやヘッドアップディスプレイなどをひとまとめにした「セーフティプラスパッケージ」が工場オプションで選べるようになります。
最上級ハイブリッドX。車両本体価格159万2800~176万円。
最上位の「ハイブリッドX」はいかにもいまどき風の要請に応えるクルマで、ロー/ハイ、車幅灯、フォグの各灯をLEDにしたランプ、全周をIR&UVカット処理を施したガラス、前席シートバック…すなわち後席乗員用のテーブルや各ポケット、内外の装飾がフルに備わるモデル。上を見ればキリがないのですが、予算に余裕があれば、この「ハイブリッドX」を選ぶのが問題ないでしょう。
今回の試乗車はこの「ハイブリッドX」で、工場オプションのセーフティプラスパッケージと全方位モニター付メモリーナビゲーションがついていました。
全体的に機種が少なく、どれにしようか迷うことはないと思われます。
●フラットフロア&ベンチシート&インパネシフトによる、定番レイアウト
ワゴンRスマイル、運転席での操作類
ハンドル正面から左に腕をずらした位置にシフトレバー、その左に空調パネル、上にハザードスイッチやCD挿入口をはさんで近年サイズ拡大が著しいナビ画面…どこの軽自動車も、この種のクルマをベンチシートのインパネシフトにするとこうなるのか、レイアウトにこのクルマならではの個性はありません。
1眼式のメーター。最近のスズキに共通するデザインである
正面のメーターは、現在のスズキ軽のおおかたに共通する円形1眼式で、大きく扇形に拡がる速度計、そのプロット内外に沿って警告灯類を散りばめ、盤面右下にはカラー液晶を備えています。
この液晶はボタンの切り替えで燃費やアイドルストップ時間、時計、各種警告&お知らせメッセージを表示するほか、車速のデジタル表示もします。この種のクルマには本格的回転計は不要というのか、その代わりにプロッティングがかなり大ざっぱな回転計も表示されるようになっていました。
メーター上には、起こしたアクリルパネルにメーター情報の一部を投影するヘッドアップディスプレイを設置。確か現行のワゴンRが軽自動車初だっと記憶しますが、これがなかなか多彩な表示を持っています。詳細は第5回で。
メーターベゼルやハンドル、シフトノブやシフト周囲のパネルのアイボリーカラーが目立ちますが、車両キャラクターのイメージに反して内装カラーは暗め。もうちっと暖色系の明るい色があってもよかったのではないでしょうか。インパネ向こうの化粧パネルは、ハイブリッドXとハイブリッドSが、ボディカラー如何で光沢のアイボリーパール、濃い青の光沢付きネイビーパールとなり、安いGは車体色問わず光沢なしのアイボリーとなります。
初代ワゴンRで称賛された、助手席シート下のボックスは各スズキ軽にいつでも引き継がれてきた。ワゴンRスマイルにも健在。座面を起こすと表れる
初代ワゴンRから伝統的に続く、助手席シート座面を起こすと現れるバケツ型もの入れ(シートアンダーボックス)はワゴンRスマイルになっても健在で、相変わらずなかなかの大容量。逆にいうと、もの入れは豊富なものの、シートアンダーボックス以外に目を惹くものはなく、どれもこれも他車で見かけるようなものばかりで、あとひとつふたつくらい、新しいアイデアがほしいところです。
●走り
スズキが持ち合わせるハイブリッド技術は2種類。走るための主役はあくまでもエンジンで、モーターはエンジン回転をアシストするにとどまる「マイルドハイブリッド」がひとつと、もうひとつは典型的なハイブリッドで、状況に応じてモーター走行、エンジン+モーターアシスト走行と使い分けするもの…スズキでは単に「ハイブリッド」と呼んでいます。どちらも減速時に回生機構を働かせるのはいうまでもありません。
現在スズキ車で主流なのはマイルドハイブリッドのほうで、ワゴンRスマイルもこちら。
だから発進時も走行中も感触は通常のガソリン車と同じで、メーター液晶のエネルギーフロー表示を見るとほとんどエンジンはまわりっぱなしです。
R06Dエンジン
搭載されるエンジンはR06D型・直列3気筒のDOHCで、最高出力49ps/6500rpm、最大トルク5.9kgm/5000rpmとほどほど数字の仕様で、これを最高出力2.6ps/1500rpm、最大トルク4.1/100rpmのモーターでアシストするという格好。
49psなんて、いまどきの軽自動車用660ccエンジンならごく標準的な数値ですが、軽自動車として見ると軽いとはいえない車両重量870kgのワゴンRスマイルでは、モーターアシストを含めても余裕のある加速感とはいえず、どちらかというと重量増ぶんを、燃料を消費しがちなターボの代わりにモーターを用い、アンダーパワー感を抱かせないようにしたという印象です。
うれしくなかったのは加速時のエンジン透過音が結構部屋に入りこんできたことで、これはこちらも決して静かとはいえなかった先回のN-BOXよりも耳につきました。これは外観イメージからの先入観もあってちょっと驚くほどで、実際、販売店にも音がうるさいという声が届いているといいます。ただし、巡航速度に乗ってエンジン回転が下がった頃には、走行音はロードノイズに交代してしまうので他社並みの音量になります。
モーターアシストによるハンドルはかなり軽く、据え切りなどは小指ででもまわせそうなほどの軽々さですが、高速走行に移ると重みを増します。「重」の字は印象がよくないというのであれば、重厚感が加わって落ち着いた感触になるというべき感触で、同じシチュエーションでの前回のN-BOXではまだ軽さが勝っていただけに、ワゴンRスマイルはなかなかうまいセッティングだと思いました。
そのハンドルの回転数は、筆者目測で片側2回転+5度ほど。したがって、ハジからハジまでのロックトゥロックは4回転と10度ほど。左右対称でした。右いっぱいに切ったときのタイヤの様子は写真のとおりです。
ハンドルの回転量は、片側2回転と5度、ハジからハジまで4回転と10度となる
前がわからはこのようになる
右フルロック時の右タイヤのようすを後ろがわから
時速80キロでのエンジン回転数は、低いときで1500~1700回転ほど、100km/hでは同じく低いときで2000回転ほど…「低いときで」と書くのは、このCVTは平坦に見えるところでもわずかな勾配に過敏に反応してなかなか一定せず、多くはこの数字よりも高めで走っていたからです。高速路ではいつでもこの回転数で走ると思わないほうがいいと思います。
80km/h時のエンジン回転数
100km/h時のエンジン回転数
同じ時速100kmでも、エンジン回転が低いときと…
高いときがあってなかなか一定しなかった。CVTではありがちなことだが、ワゴンRスマイルではそれが顕著だった
全機種ともCVT。マニュアルモードはないが、なくても不便はない
このCVTには、ドライバー任意で段を切り替えるマニュアルシフトはありません。筆者はせいぜい山間道下りでエンジンブレーキを選択的に使うのにあればいいと思っているていどですが、その代わり長い下り坂ではレバーサイドのSボタンを押すなりシフトをLに落とすなりしてエンジンブレーキ併用で走らなければなりません。このクルマのCVTにもいまやあたり前の登降坂制御が入っていますが、他のクルマに等しくその働きは顕著ではなく、ドライバーは積極的にレバーをガチャガチャ動かす必要があります。
フロントはマクファーソンストラット、リヤはトーションビーム式という、世の中に掃いて捨てるほどある組み合わせですが、造りなれているだけに乗り味にどうこういう点はありません。どちらかといえばわずかにやわらかいほうかなと思うていどですが、全輪とも2.4kgm/cm2という高めの指定タイヤ圧を思うとうまい乗り心地を造り上げたというべきでしょう。
高速路でちょい早めの車線変更をしても揺れ戻しなくきちんと収束するいっぽう、そのセッティングが災いして山間道カーブでロール(ボディの横傾き)が大きいということもありませんでした。
ひところ、これは特に1000~1500cc級のクルマに多かったのですが、低燃費を追い求めるあまり、同じクルマなのに改良のタイミングで軽量化のためにエンジンオイル量は減らすわ、ころがり抵抗低減のため、タイヤ指定圧を上げて乗り心地は悪化させるわという手入れをしていた時期が長かったことを思うと、どこのクルマも神経を逆撫でしない乗り味の訴求がうまくなったと思います。
ただ、軽自動車に限らないのですが、同じクラスの似たサイズ、似た値段同士のクルマなら、どれに乗っても同じ乗り味であることが多く、そろそろ各社、目隠しして乗せられても「スズキだ」「ダイハツだ」「トヨタだ」とわかるようなメーカー独自の乗り味をめざしてほしいと思います。たとえそれがスポーティモデルではない、街乗り主体のクルマだとしても。
ワゴンRスマイルは155/65R14タイヤを履く。ホイールカバーのスポークが多く、タイヤ圧確認がしにくいのには参った!
タイヤ圧といえば、この「リアル試乗」は、まずはタイヤ圧を確認、指定圧から外れていたならエアを増減するところから始めるのですが、それ以前にホイールカバーのスポークが多くて間隔が狭いため、タイヤのエアバルブに口金をあてにくく、4本の確認完了まで通常なら1分未満ですむところ、3分ほどかかりました。このクルマのユーザーならタイヤ圧確認をディーラー任せか給油所任せにするひとのほうが多いかもしれませんが念のため。
リヤシートはリクライニング、スライドを備える
フロントシートにはアームレストが備わる
シートはファブリック地のベンチ式。といってもベンチ式なのは座面だけで、シートバックのほうは通常のセパレート式と変わらない形状をしており、上半身サイドを保持する形になっています。
そのアームレストはボックスになっていた
センターのアームレストはN-BOXより短いものの不便はなく、このアームレストは、N-BOXにはなかったもの入れになっていました。
シートスライド量は割に大きく、身長176cmの筆者はスライド位置を最後端より2段ほど前にして乗っていました。毎度いうように、筆者は身長に対して脚が長いので必然的にスライド位置が後ろ寄りになるのですが、その筆者とて余裕を残せるほどだったので一般のひとにはなお不足はないと思います。
フロントシートのベルトキャッチャー周辺のすきま埋めが雑で、このあたりにまですべってきたスマートホンがすり抜け、床に落ちてしまった
改良してほしいと思ったのは、座面のキャッチャー部分。キャッチャー可動しろの造り方が雑ですきまが大きく、スマートホンを置いておいたら床に落ちました。
前席乗降部の地面からの高さ
後席乗降部の地面からの高さ
身長176cmの筆者が運転する場合の位置に合わせた運転席シート周辺、後席周辺の寸法は写真のとおりです。
今回はここまで。
次回、「セーフティサポート」編でお逢いしましょう。
(文・写真:山口尚志 モデル:海野ユキ)
【試乗車主要諸元】
■スズキワゴンRスマイル ハイブリッドX (5AA-MX91S型・2021(令和3)年型・2WD・CVT・コーラルオレンジメタリック アーバンブラウン2トーンルーフ)
●全長×全幅×全高: 3395×1475×1695mm ●ホイールベース: 2460mm ●トレッド 前/後: 1295/1300mm ●最低地上高: 150mm ●車両重量: 870kg ●乗車定員: 4名 ●最小回転半径: 4.4m ●タイヤサイズ: 155/65R14 ●エンジン: R06D(水冷直列3気筒DOHC) ●総排気量: 657cc ●圧縮比: 12.0 ●最高出力: 49ps/6500rpm ●最大トルク: 5.9kgm/5000rpm ●燃料供給装置: EPI(電子制御燃料噴射) ●燃料タンク容量: 27L(無鉛レギュラー) ●モーター: WA04C(直流同期電動機) ●最高出力: 2.6ps/1500rpm ●最大トルク: 4.1kgm/100rpm ●動力用電池(個数/容量): リチウムイオン電池(5個/3Ah) ●WLTC燃料消費率(総合/市街地モード/郊外モード/高速道路モード): 25.1/22.6/26.2/25.7km/L ●JC08燃料消費率: 29.2km/L ●サスペンション 前/後: マクファーソンストラット式/トーションビーム式 ●ブレーキ 前/後: ディスク/リーディングトレーリング ●車両本体価格 : 159万2800円(消費税込み・除くディーラーオプション)
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