暁中学校・高等学校(三重県四日市市)は昨年度、「6年間で育てたい10の生徒像」という教育目標を掲げた。創立以来の学園綱領である「人間たれ」の精神を、現代にマッチする具体的な生徒像として示したものだという。この生徒像を育むために実践されている「GSH」教育や入試制度改革、キャリア教育の試みなどと合わせ、
「人間たれ」。これは同校を運営する暁学園が1950年に幼稚園から短大までの総合学園化した際、初代学園長の五嶋孝吉博士が定めた学園綱領だ。
「五嶋先生は『人生では勝者、敗者も生まれるが、勝者の権力といえども敗者の愛情には遠く及ばない』と言われました。人生でときに直面する困難も人と人とのつながりによって解決されることは多いでしょう。人への思いやりは、自らをも幸せにします。教育の中で、人間としてどうあるべきか問うことの大切さが『人間たれ』に込められているのです」。百中校長は、学園綱領の意味をこう説明する。
昨年から現職にある百中校長は、1985年に英語科教諭として着任以来、同校の教育を見つめ続けてきた。百中校長によると、同校は、学園綱領に基づく教育目標として約20年前から「国際的視野に立って、広く社会に貢献する人間を育てる」など5項目を掲げ、時代に沿った人材育成に努めてきたという。しかし、近年、周囲から「より具体的なイメージがあればさらに理解されやすいのでは」などの指摘を受け、思うところあって昨年6月、「10の生徒像」を定めた。このうち、百中校長が特に力を入れたいとしているのが次の三つだ。
1.人に対して、その人の人格や個性を理解し、その痛みや苦しみを自分のことのように捉えて、行動に移すことができる生徒
2.世の中の有用な情報に接し、その事象を自分の生き方に結び付け、様々な体験・経験などを通して、自ら考え、学び続けることができる生徒
3.将来の夢の実現に向けて、主体的に学び、考えたことを自分の言葉で分かりやすく人に伝えることができる生徒
3番目の生徒像について百中校長はこう説明する。「高校で習うボイル・シャルルの法則を小学校低学年の子供に分かりやすく説明せよという、大学入試の面接問題がありました。自分が習った内容でも小さな子に説明して分かってもらうのは困難です。このようなケースは現実に多々あります」
「考えたことを自分の言葉で分かりやすく人に伝えることができる」ように、同校では国語の授業でディベートや意見文の発表をしばしば取り入れており、すべての教科でアクティブラーニングを展開しているという。「真に相手に理解してもらえる能力を身に付けさせています。それが生徒の未来を開くことにつながるからです」と百中校長は語る。
やや抽象的だった教育目標を、具体的な「10の生徒像」で表したこと自体が、他者に理解してもらえる能力の大切さを生徒に伝える試みと言えそうだ。
こうした生徒像を育むための学習体系として、同校は2020年から「GSH」教育と呼ぶメソッドを実践している。この名称は「Global」「Science」「Human」の頭文字を取ったものだ。
「G」の中心をなす学びは「語学習得プログラム」だ。軸となる英語授業は同校で30年近い経験を持つアメリカ人教師が担当する十数人のクラスでの少人数英会話、中2から全員が受験するGTECに対応するICT学習などがある。
また、アメリカ、ニュージーランド、オーストラリアに姉妹校を持ち、現地校の協力を得て中2から春・夏休みに海外語学研修を行う。中3からは短期(1か月)、中期(3~6か月)、長期(1年間)留学のメニューも用意され、ディスカッション、プレゼンテーションのスキルと異文化理解を深める機会となっている。なお、長期留学では単位互換制度を設けていて、帰国後は元の学年に戻れる。
「S」の学びには、「理数力伸長発展プログラム」がある。理科の各教科で仮説・検証・考察をアクティブラーニングで進め、科学的方法を身に付けるものだ。中学理科では、教科書に記載されている50余りの実験をすべて実施し、生徒たちはグループで仮説から結論までを考察し、発表を行う。法則通りにデータが出ないことも多いが、「意外な結果を巡って改めてよく考える、言わばディープなアクティブラーニングの体験となります」と百中校長は話す。各種の理科、数学検定の受験、コンテスト、コンクールへの参加の推奨・指導にも力を入れているそうだ。
「H」の学びでは「感動体験プログラム」を柱として人間力向上を目指す。学年ごとに定めたテーマで研修があり、中2では広島平和研修、中3では東京フィールドワークなどが行われる。被爆体験の語り部に耳を傾ける平和研修について百中校長は「平和学習のためだけに広島を訪ねる。ここまで徹底している学校は少ないのでは」と言う。東京フィールドワークでは最高裁、大使館、読売新聞東京本社など「首都東京にしかない機関」を見学するのがプログラムの主眼だ。
このほかに、東日本大震災の発生以来継続している生徒の「復興支援委員会」による宮城県石巻市でのボランティアや、各種の生徒活動、学校行事も「H」の学びに組み込まれる。
同校では、こうしたプログラムによって養われる目に見えにくい「人間力」を、毎年2月、あるいは行事ごとにルーブリックを使って評価している。他人への共感、リーダーシップなど数十項目を5段階で自己採点させ、数値化することで成長ぶりを着実にフォローできるという。
GSH教育と並行し、新たにさまざまな試みも進められている。その一つが、一昨年入試から「特進コース」を廃止したことだ。小学校6年の1月時点での学力偏差値でクラス分けをしてしまうことは、希望のコースに入れなかった生徒の学習意欲をそぎかねないという判断からだ。同じ条件で中学生活をスタートし、中学2年から英語と数学で、学期ごとに習熟度別クラス編成を行うという。百中校長は「早期のコース分けは、将来の可能性に合わない懸念もあります。学校生活で自分の特性を見出し、伸ばす生徒が評価される方が意欲は高まると期待されるのです」とコース制廃止の意義を説明する。
キャリア教育の推進にも力を入れている。学園の系列校である四日市看護医療大学と四日市大学との連携を深める予定で、すでに医療系大学を志望する生徒に対して、四日市看護医療大学からの出前授業や、個別相談などのフォローを依頼しており、大学も受け入れを約束しているという。
今春、意欲的に教育改革に取り組む百中校長を喜ばせる出来事があった。「4月に中2の有志生徒が『あいさつ運動』を始めました。新入生を迎えるのにどうしたらよいか、自ら考え、実行した結果です。人としてマナー、規律を守るという人間教育の基本にかなっていて私も大賛成です。生徒らの人間力の成長を実感しました」。
生徒たちはコロナ禍の中でも、ふさぎ込むことなく、「人間たれ」の学園綱領を自分たちなりにのびのび実践しているようだ。
(文:高田史朗 写真:中学受験サポート 一部写真提供:暁中学校・高等学校)
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