落語に魅入られた夫婦が手弁当で運営する西宮市の寄席が、オープン1年を迎えた。新型コロナウイルス禍で、
広さ約60平方メートルで45席。こぢんまりした「門戸寄席J:
元小学校教諭の安田さんは「仕事一辺倒だった」と言い、特段の趣味もなかった。転機となったのは、教諭生活が最終盤を迎えた50歳代半ばの頃。光子さんに誘われ、歌舞伎や狂言の鑑賞に行くようになった。
中でも、伝統芸能の奥深さと肩肘張らない大衆性を併せ持つ落語に引かれた。退職後の2017年2月、初めて落語会を主催した。教員時代から、学校行事の度に児童を喜ばせる企画を立てるのが好きで、「血が騒いだんです」。
知人のつてで出てくれたプロの落語家たちから、高座の背景をどうするかや、照明をどう当てるかなど客としては気付かなかった視点を学んだ。「噺家さんの素顔に触れ、落語をより楽しめるようになった」という光子さんに支えられ、嘱託職員として公益財団法人で働くなどしながら月1、2回、会を続けてきた。
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「門戸寄席J:SPACE」をオープンしたのは昨年11月。それまでの落語会でずっと利用してきた居酒屋の別館部分を、借りた。コロナ禍での業績悪化で、別館が閉鎖されると聞いたのがきっかけだった。「積み重ねてきたものを、なくしてしまうわけにはいかない」と迷いはなかった。
台所を改築して楽屋をつくり、トイレを増設。壁紙も貼り直した。定員を半数以下に制限し、空気清浄機を置くなど感染対策を徹底しながら、この1年で60回の落語会を重ねてきた。
他の寄席では公演が次々中止される中、「実際にお客さんの前でしゃべらないと、芸が鈍って話せなくなる」と危機感を抱いていた落語家たちから感謝され、「伝統芸能を支えている実感を持てた」と安田さん。定期公演をする落語家も現れ、新たに習得した演目をかける「ネタおろし」の場所に選んでくれることも多いという。
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1周年記念公演が初日を迎えた10月31日、ベテランの月亭遊方さんが高座を勤め、マイクを使わずに地声を響き渡らせた。客席を何度も何度も沸かせ、「お客さんと一体になれて、アットホームな雰囲気がある」と遊方さん。「席亭の厳しい目線があって、研さんの場でもある」と安田さんへの感謝も惜しまない。
記念公演は、休日を中心に年末まで続く。28日午後2時からは、運営に助言し続けてくれた笑福亭純瓶さんが出演する。今後も、桂あおばさんらのユニット「ひうち」や、桂佐ん吉さんの落語会、笑福亭鶴笑さんと桂文鹿さんの各一門会……と多彩な顔ぶれで小さな寄席が沸く。
経営は赤字続きで、夫婦で持ち出しを続けている状況だ。それでも「上方落語の定席を目指したい」と安田さんは胸を躍らせる。
地域の人らに、落語以外の時間に活用の幅を広げてもらう道も模索していく。「文化の魅力を伝える地域の拠点にしたい。ファンの持ち込み企画が増えれば、もっと楽しい時間を増やせる」と、夢の詰まった寄席に期待をかける。
1周年記念公演などの問い合わせは「門戸寄席J:SPACE」(070・3603・3192)へ。
からの記事と詳細 ( 門戸寄席1年 福来たれ - 読売新聞 )
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