Sunday, October 15, 2023

得度した稲盛和夫が「100円玉」に心を打たれた理由 | 稲盛和夫のことば ... - 毎日新聞

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稲盛和夫のことば(34)

私の全身を言いしれぬ感慨が走った。そのおばさんの美しい心に打たれ、たとえようのない幸福感に私は満たされていた。

「人生と経営」致知出版社(169~170ページ)

修行で出会った「利他の心」

 網代笠を深くかぶっているから、私が誰であるかはわかるはずはない。ただ、見慣れない雲水だということはわかったようだ。ある家では、おかみさんが、「新しいお坊さんですね。お顔を見るのは初めてです。修行は大変で、お腹も空くでしょうから帰りに何か食べてください」と五百円玉を差し出された。

 決して豊かな暮らしをされているようには見えなかったが、ねぎらいの言葉とともに、心温まるお布施をいただいた。その美しく優しい心は、今まで私が感じたことがないくらい純粋だったように思う。

 さらに托鉢をつづけていると、わらじの先から少し指が出ているものだから、アスファルトに爪があたり、普通の姿勢では痛くて歩けなくなる。そのため、かかとに体重を乗せて歩いていると、今度はふくらはぎが痛くなってくる。何ともみっともない格好で、頭陀袋にお米をいっぱい入れて公園の中を歩いていると、落ち葉を掃き集めていたおばさんが小走りに寄ってこられ、何もおっしゃらずに、私に百円を恵んでくださった。

 そのとき、私の全身を言いしれぬ感慨が走った。そのおばさんの美しい心に打たれ、たとえようのない幸福感に私は満たされていた。全身を「愛」が包んでくれると表現してもいいだろう。

 布施を施す側に、衒(てら)いも、奢(おご)りも、気負いもなかった。もちろん、何か返礼を期待しているはずもない。美しい心根のままに、お布施を差し出されて…

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