Monday, March 2, 2020

ランボルギーニ「ウルス」は“鎮静剤を打たれた猛獣”だ…「非現実性」は薄く、獰猛さは抑えめ | ビジネスジャーナル - Business Journal

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ランボルギーニ「ウルス」

 自動車業界において、世界の主流はSUV(スポーツユーティリティヴィークル/スポーツ用多目的車)に移行しつつある。SUV系のモデルをラインナップに持たないメーカーは、もはや企業としての存在が危ぶまれるほどだ。 

 それはスポーツカーメーカーとて同様で、それが証拠にスポーツカーメーカーのポルシェでさえ、早くからSUVを充実させたことで経営を安定させた。初のSUVである「カイエン」だけでなく「マカン」をリリースするという周到な戦略が成功に導いた。

 その波は武闘派のスポーツカーメーカーにも伝播した。ジェームス・ボンドで有名なアストンマーチンは「DBX」を発表。イタリアのマセラティは「レヴァンテ」をリリース。ついには、あのフェラーリでさえ、2022年にはSUVを発売するというから、時代はSUVなのである。そんな時代を色濃く反映するのが、ランボルギーニ「ウルス」であろう。

 ランボルギーニは、あの「カウンタック」を生み出したイタリアのメーカーである。「アヴェンタドール」や「ウラカン」といった過激な“猛獣”を次々にリリースしたことが証明するように、バイオレンス度は図抜けており、他の追随を許さない。そんなランボでさえ、SUVをラインナップに揃える必要があるのだ。

 同時にそれは、このような非現実的なスポーツカーを所有する富裕層の生活パターンや趣味趣向にも符合する。ビジネスで成功し、華やかな生活を送る富裕層には、高額なスホーツカーが欠かせない。その一方で、生活の一部となり得るSUVが求められる。普段はSUVをビジネスツールとして活用し、ウィークエンドはバイオレンススーパーカーで余暇を過ごす。そんな富裕層の理想的な生活サイクルに、SUVは欠かせない。商業的にもうまみがあるのだ。

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 だからというわけではないのかもしれないが、「ウルス」は特異なランボルギーニだと言わざるを得ない。そのスタイルは、まごうことなきランボルギーニであることを主張する。ルックスは「アヴェンタドール」と血筋を共にすることが明白。それはポルシェの「カイエン」や「マカン」、アストンマーチンの「DBX」、マセラティは「レヴァンテ」と同様に、背が高く5枚のドアを持つようになっても、ブランドイメージと血統を色濃く感じさせるものとなっている。

 だが、走り始めてみると非現実性が薄れているのは、やはり「カイエン」「マカン」「DBX」「レヴァンテ」と同様なのである。

 搭載するエンジンはV型8気筒ツインターボであり、ライバルを大きく凌ぐパワーが与えられている。最高出力は650psに達するというから、常軌を逸していると言わざるを得ない。

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 だが、日常で扱い切れない化け物かと言えば、答えは「否」となる。「アヴェンタドール」や「ウラカン」のような手に余る獰猛さは抑えられている。その気になれば300km/hオーバーの世界に連れ込まれるのは明らかだが、手綱を締めている限り大人しい。ドレスアップしてパーティ会場に向かうことだって許容するし(むしろそれが本来の使い方かもしれないが)、スーパーマーケットへの往復でさえ持て余すことのない柔軟性を供えているのだ。それは経営的に、フォルクス・ワーゲングループのアライアンスに組み込まれたことと無縁ではないだろう。「牙を抜かれた」と表現するのは酷だが、非日常性がウリだったランボルギーニも、「ウルス」になると少なくとも首輪を引き千切って駆け出すこともないのである。

 鎮静剤を打たれた猛獣――。それが「ウルス」である。
(文=木下隆之/レーシングドライバー)

●木下隆之
プロレーシングドライバー、レーシングチームプリンシパル、クリエイティブディレクター、文筆業、自動車評論家、日本カーオブザイヤー選考委員、日本ボートオブザイヤー選考委員、日本自動車ジャーナリスト協会会員 「木下隆之のクルマ三昧」「木下隆之の試乗スケッチ」(いずれも産経新聞社)、「木下隆之のクルマ・スキ・トモニ」(TOYOTA GAZOO RACING)、「木下隆之のR’s百景」「木下隆之のハビタブルゾーン」(いずれも交通タイムス社)、「木下隆之の人生いつでもREDZONE」(ネコ・パブリッシング)など連載を多数抱える。

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