Thursday, July 2, 2020

グーグルの「らしさ」は、いまも保たれている:スンダー・ピチャイが語るグーグルの現在とこれから(後編) - WIRED.jp

※スンダー・ピチャイへのインタヴューの前編はこちら

アルファベットを設立した理由

──アルファベットのCEOに就任して以来、持株会社という形態を見直そうとしましたか? 個人的には、この体制は利点と弊害がせいぜい半々のように思えますが。

2015年にアルファベットを設立したときは、ラリー(・ペイジ)とセルゲイ(・ブリン)と緊密に意見交換しました。わたしたちは長期的にさまざまな基幹技術に投資していく計画ですが、なかにはインターネット空間と呼ばれる範疇に収まりきらないようなものもあり、アルファベットはそうした分野への投資を可能にするために立ち上げたのです。

グーグルから切り離してやろうとしたのは、こうした基幹技術が用いられる場所が大きく異なるからです。わたしたち全員が、これは長期を見据えたプロジェクトになると理解していました。ある程度の失敗をしなければ、大きな成功を手にすることはできません。後退することもあるのです。

持株会社という形態は、この意味で非常に役に立っています。グーグルの経営陣は既存の事業で手いっぱいですが、新しいビジネスに時間を割く必要がなくなりました。また、大きく前進した事業は独立して運営しようとしています。最近では(自動運転技術部門の)ウェイモ(Waymo)が外部から資金調達しました。つまり、独立企業としての性格が強まったわけです。

──ウェイモを分社化しないのはなぜでしょうか? 自動運転分野には10年以上も投資を続けており、それなりの進展があったのではないでしょうか。

いまお話したことと関係してくるのですが、自動運転の根幹をなす技術はアルファベットの人工知能(AI)事業とのシナジーが見込める部分が多くあります。今回、外部からの資金を受け入れた理由のひとつは、監督体制を構築することです。ガヴァナンスを整え、同時に外部の知見を取り入れていきたいと考えています。内部と外部を組み合わせてやっていくのです。

──ということは、スピンオフに向かっているのでしょうか。

現時点ではその予定はありません。ただアルファベットを含むグループ全体で考えれば、未来のビジネスを追求していくことは確実です。わたしたちはそれをチャンスだと考えています。

ふたりの創業者は、なぜ退任したのか

──ラリー・ペイジとセルゲイ・ブリンは、どの程度ビジネスにかかわっていますか?

退任の準備を進める過程で、ふたりからは必要なときはいつでも連絡するよう言われました。インフォーマルなかたちではありますが、いまでも彼らとよく話をします。会話は楽しいものですよ。ふたりとも長期的なヴィジョンをもった素晴らしい思想家です。いま「素晴らしい」という言葉を使いましたが、型破りだと言いたいときに適切な表現でしょうか。

──ラリーは2004年にグーグルが上場した際、グーグルは従来型の企業にはならないと宣言しましたね。

その通りです。彼らは従来型の思想家ではありません。日々の雑事にかかわっていませんから、普通とは違ったものの見方をしています。ふたりともわたしとは違う時間軸で話をしているので、彼らと会話をしたあとはいつも新鮮な気持ちになります。

──ラリーと最後に話したのはいつですか。

数日前ですね。

──彼らはなぜ経営の一線から退いたのだと思いますか?

それはわたしではなく、ラリーとセルゲイの口から語られるべきでしょう。ふたりは退任を明らかにしたとき、次のことに挑戦したいと書いていました。とはいえ、取締役会には留まりますし、株主としてかかわっていってくれるはずです。

グーグルの「らしさ」と変化

──グーグルに入社されたのは2004年4月1日で、ちょうど「Gmail」がサーヴィスを開始した日でした。Gmailはすべてを飛躍的に進化させ、いまや電子メールの標準となった感もあります。誰もがこのサーヴィスを使っていますよね。ラリー・ペイジはかつて、競合より10パーセント優れた製品でなければ開発する意味はないと言っていました。そして、それをさらに10倍も100倍も改良しようとしていたのです。グーグルのこうした精神はよく知られていますが、それが反映された最後の製品は何でしょう。

Gmailのあとにもさまざまな製品を世に送り出し、ユーザーが10億人規模のサーヴィスに拡大してきました。「Google フォト」は5周年を迎えたばかりです。わたしはいつも、開発がまだ十分に進んでいない分野に目を向けるようにしています。「Google アシスタント」が一例です。いまでは、いつどこにいてもコンピューターにものを尋ねられることが普通になりました。すでにわたしたちの生活の一部になっているのです。

グーグルでは、イノヴェイションはよく特定の製品の開発過程で実現します。スマートフォン「Pixel」を使えば、動画に自動で字幕を付けたり、Google アシスタントを使って電話に出る前に用件を確認するといったことが可能です。一方で、より根幹の部分でのイノヴェイションもあります。昨年は「量子超越性」の実証に成功しました。

──グーグルの「らしさ」は保たれていると思いますか?

もちろんです。創業時からまったく変わっていない部分がたくさんあります。グーグルらしさはあらゆるところに存在し、わたしが入社したばかりのころを思い出させてくれるような楽観主義や好奇心を感じることができます。もちろん、当時と比べれば会社の規模が違うので、グーグルらしさは会社全体というよりも、それぞれのチームで観察できるかもしれません。それでも企業精神そのものは変わっていないのです。

──変化のひとつに、毎週開催されていた全体ミーティング「TGIF」のやり方があります。以前は従業員から質問を受けていましたが、いまはなくなりましたね。

TGIFは現在も頻繁に開催しています。頻度は月1回になりましたが、2週間前にも開催したばかりです。質問は従業員一人ひとりではなくグループごとに受けていますが、それは現在のグーグルの規模ではそのほうがうまくいくからです。大企業として自然な流れの変化だと捉えています。

──もうひとつ、経営陣と従業員の対立もあります。国防総省からの受注や職場でのハラスメントといった問題に、従業員が強く反発しました。

ここ数年で起きたことに関しては、外部的な要因も大きかったのかもしれません。ただ、社内では常に、さまざまな問題について活発な議論が交わされています。

改善が必要という指摘は完全に正しい

──NBCが5月半ばに、グーグルは組織構成の多様性促進に向けた努力を後退させていると報じました。これについては否定なさっていますね。一方で、より全体的な問題として、グーグルが定期的に発表している多様性を巡る報告書によると、最近の進歩は非常に限られています。グーグルは不可能を実現する企業であることを誇りにしていますが、多様性の面での飛躍が実現しないのはなぜでしょう。

いい質問ですね。ご指摘のように、グーグルは多様性に関するレポートを出すようになった最初の企業のうちの1社です。昨年も世界全体で女性の雇用を拡大しただけでなく、米国ではアフリカ系およびラテン系の採用を増やしています。これまでにも、歴史的黒人大学(HBCU)[編註:歴史的に黒人を中心に受け入れて教育機会を提供してきた高等教育機関の総称]と提携したプログラムなど、各種の取り組みを進めてきました。

従業員に占めるマイノリティーの比率という数字に大きな変化が見られないのは、ひとつにはグーグルの規模が拡大していることがあります。ただ、改善が必要という指摘は完全に正しいものです。さらなる変革を起こすために何をしなければならないのかと、常に自問するようにしています。

──組織構成の多様性実現に向けたOKR(Objectives and Key Results=目標と主な結果)はありますか?

この分野には長期的な視点で取り組んでおり、具体的な数値目標は設置していません。ただ、現状は理想にはほど遠いので、改善していかなければなりません。

──中国に対するスタンスについて教えてください。

中国では事業展開はしていますが、中核的な製品やサーヴィスは提供していません。また、今後提供する計画もありません。

──検閲可能な中国版の検索エンジン「Dragonfly」は開発を断念したのでしょうか。

中国で検索サーヴィスを提供する予定はありません。

トランプのような大統領をどう扱うべきなのか?

──トランプ大統領について、いくつか質問させてください。ホワイトハウスの発表では、グーグルは米国経済の再開支援に向けた諮問機関「Great American Economic Revival Industry Group」に参加していますが、これについては事前にご存知でしたか?

タスクフォースのメンバーがどのように選ばれたかなど、全体像を把握しているわけではありませんが、全力で協力していくことは政府と確認しています。

──大統領との関係をどのように説明しますか。3月半ばには、大統領が「グーグルが新型コロナウイルス感染症の自己診断ができるウェブサイトを開発している」と、事実とは異なる発言をする事件がありました。大統領はその後、このサイトが実在しないことについてあなたが謝罪したと言っていますが、大企業はドナルド・トランプのような大統領をどう扱うべきなのでしょう。

わたしたちは市民としての責任を重大に受け止めており、いつでも政府に協力する用意があります。大統領とはこれまで、当面の課題を解決するために建設的な関係を築いてきました。

──コンテンツの削除についての判断にはかかわっていますか? グーグルが運営するプラットフォームで大統領が正確ではない情報を拡散した場合、それを削除するかどうかの最終判断はあなたが下すのでしょうか。

YouTubeのコンテンツをどうするかという判断は、重要性にもよりますが、基本的には内部で完結します。わたしも話し合いに加わったことはありますが、それよりもまず外部の専門家の意見を多く取り入れるようにしています。昨年、差別やハラスメントの防止に向けた対策を策定した際にも、外部のグループから幅広く話を聞きました。

医療分野の誤った情報についても同様です。医療機関や専門家と意見交換したり、公衆衛生当局に相談することもあります。ただ、質問への答えとしては、コンテンツ削除の議論には必要であればわたしも参加しています。

──大統領が発信する医療に関する危険で誤った情報をブロックする用意はありますか?

仮定の質問には答えられません。民主主義においては一般的に、企業が政治的な情報公開をサポートすることが非常に重要です。わたしたちの役割は、こうした文脈において新たな情報ソースを積極的に明らかにしていくことだと考えています。

──フェイスブックは外部の監督委員会を設置しようとしています。グーグルも同様に、あなたの決定を覆すことのできる外部組織を設ける必要があるか、もしくはそうすることが望ましいと思われますか。

他社の動きは常に注意深く見守っており、そこから得られるものがあれば取り入れるようにしています。

これまでの人生について思うこと

──あなたはインドからの移民として米国に来て、世界で最も力のある企業のひとつを率いるようになりました。これまでの人生について思うことを教えてください。

昔からテクノロジーが大好きでしたが、幼いころはそれにアクセスする手段はほとんどありませんでした。回転ダイヤル式の電話機やテレビといったものに初めて触れたときのことを、いまでも鮮やかに覚えています。米国に来てコンピューターというもの全般が身近になったことが、わたしの人生を変えたのです。

これまでの人生の大半は、誰もがテクノロジーにアクセスできるような世界をつくることに時間を費やしてきました。もちろん、いまの職務に就くようなことは夢にも思っていませんでしたが、とても感謝しています。数十億人の人々の生活にかかわるような仕事をすることができて、非常に恵まれていると感じます。

──最後に「スンダー・ピチャイ」という人物の謎に触れる質問ですが、あなたは非常にいい人だということをよく言われます。一方で、かなり情け容赦ない部分がなければ1兆ドル企業のCEOにはなれないと思うのですが、あなたには周囲が知らない一面があるのでしょうか。

人々が使ってくれて、その生活に影響を与えるようなものを構築していくことが、わたしに満足感と活力を与えてくれます。あとのことはその結果でしかありません。

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