「完全にこっちの流れなのに……」。思わず黒い空を見上げた。六回、６点差に詰め寄り、なお二死一、二塁の場面から左前に鮮やかな適時打を放ったところだった。雷鳴がとどろき、無情にも試合は中断され、県内初の継続試合となった。
今春の県大会では、５点差をひっくり返されて逆転負けを喫した。「次は俺たちが５点差をひっくり返す番だ」。そう繰り返し、主将として仲間を鼓舞してきた。言葉通りの逆転劇を演じられそうだと思っただけに、悔しさもひとしおだ。
学校に戻り、約１時間の打撃練習をしてから帰宅したが、今までにない不安感が襲ってきた。「試合は始まってるし、終わってもいない。どういうことなんだ」。“ゾワゾワ”が収まらなかった。
六回二死一、二塁。同じ球場、同じ場面。だが、雰囲気が明らかに違う。昨日応援してくれたブラスバンドもいない。再開された試合では１点を返したが、この回の反撃はここまで。その後、逆に点差を広げられてしまった。
迎えた九回、二死一、二塁で打席が回ってきた。この回の打者は２年生ばかり。「絶対に渡辺さんまで回す」と、四球や安打でつないでくれた。振り抜いた打球はセカンドに転がりゲームセット。
「今日は言葉にできないほど本当に難しかった」。胸に刻んだ２日分の思い。すぐに消化できるわけがない。（吉武幸一郎）
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