Tuesday, July 21, 2020

秘伝のたれ流失「泣く元気もなかった」…人吉の老舗ウナギ店、常連客に励まされ再開誓う - 読売新聞

 熊本県南部を襲った豪雨では、老舗のウナギ店も被害を受けた。創業112年になる人吉市紺屋町の「上村うえむらうなぎ屋」では、「土用のうしの日」の21日も、店の女将おかみらが浸水と土砂流入で損壊した店の片付けを続けた。大切な秘伝のたれが流失し、「廃業」の2文字が頭をよぎった瞬間もあったが、常連客からの励ましに力づけられ、再開を目指している。(横山潤、那須大暉)

 水害で流入した泥が残る「上村うなぎ屋」の駐車場で21日午前、3代目店主・上村由紀穂さん(70)の妻、恵子さん(68)が、泥かきや残った食器の水洗いに汗を流していた。店内の片付けはあらかた終わったが、壁や畳なども水を吸っており、大がかりなリフォームが必要だ。「毎年、丑の日はお客さんがいっぱいで忙しかったんですけどね……。来年の丑の日までには、営業再開できるようにがんばりたい」と前を向く。

 店は球磨川の支流・山田川から約100メートルと近く、4日朝の豪雨で3階建ての建物の2階部分まで浸水した。従業員と店を見に行ったとたん、津波のような濁流が流れ込んできて、慌てて3階に逃げ、助かったという。

 6日に店内を確認すると、冷蔵庫は倒れ、ウナギの焼き場や厨房ちゅうぼうは土砂で損壊。陶器のかめに入れていた秘伝のたれは全て流されていた。4日の仕込み用だった約600匹のウナギも、入れていたおけに土砂が流入し、ほとんどが死んでいた。「代々守ってきたものが一瞬でなくなった。正直、『廃業だ』と思った。泣く元気もなかった」と恵子さんは振り返る。

 球磨地方はかつてウナギの産地として知られ、店は1908年(明治41年)に由紀穂さんの祖父が開いた。しょうゆや砂糖などで作るたれはつぎ足しを繰り返し、創業以来同じものを使ってきた。現在は主に鹿児島、宮崎産のウナギを使い、炭火で焼いてかめのたれにつけて仕上げる。そうすることで、たれに脂が混ざってまろやかさが増し、甘辛い絶妙の味が保たれてきたという。

 地元の常連や観光客らが連日300人以上詰めかけた店は、今年に入って新型コロナウイルスの影響で売り上げが落ち、さらに水害に見舞われた。由紀穂さんによると、再建には少なくとも1億6000万円かかるとみられ、「資金的に厳しい」と肩を落とす。

 そんな中で、常連客らが「また食べに行きます」「絶対に閉めないで」などと電話をかけてくれた。冷蔵庫に保存していたペットボトル5本分の秘伝のたれが無事だったことも分かった。被災後、解雇せざるを得なかった従業員たちも、ボランティアで店の片付けに通ってくれる。「困難な道のりでも、一日でも早く再建して、被災した地元を元気づけたい」と夫婦は口をそろえる。

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